2011年12月10日、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科川端キャンパスにて、2011年度日本オセアニア学会関西地区例会を開催した。今回 の例会には10名が参加し、2名の研究発表が行われた。発表題目、発表者などは以下の通りである:
紺屋あかり氏の発表では、最新のフィールドワークのデータから、ベラウ(パラオ)のチャント(古典歌謡)の継承をめぐる人々の実践を、単なる「伝統文化の継 承」としてだけでなく、言語芸術が生み出される場として捉え直す試みがなされた。継承形態が多様化する都市部の事例と、親族関係に基づいた継承形態が維持され る村落部の事例との双方から、人々が社会関係の変化に対応しながらチャント継承の場を再形成していく様子が提示された。コメンテーターの遠藤央氏からは、ベラ ウにおいて文字化されない知識がもつ権力性、学校教育を通じた文字習得の影響、「伝統文化の継承」のために近年行われるようになった知識の文字化の影響などが 指摘された。その後、古典歌謡を継承ないし文字化する意図・目的、ベラウの古典歌謡の定義およびジャンルの区分、技能の伝承と知識の伝承の区分などに関する質 疑応答がなされた。
渡辺文氏の発表では、フィジーのオセアニア・センター(Oceania Center for Arts and Culture)における絵画作品群(レッド・ウェーブ・アート)の制作現場を事例として、民族芸術の担い手たちは、グローバルな市場の要請や芸術生産の制度によって一方 的にコントロールされているわけではなく、芸術活動の行為遂行性、すなわち芸術家としての身体感覚を動員した人間とモノとの相互作用を通じて、諸制度の制約を 換骨奪胎するような創造性を発揮していることが報告された。コメンテーターの丹羽典生氏からは、芸術研究からみたオセアニア芸術の位置づけ、芸術をめぐる諸制 度のとらえ方とその定義、芸術作品と作者との関係性、芸術の個性を生み出す要因などに関する指摘がなされた。その後、フロアからの質疑をふまえて、レッド・ ウェーブ・アートにおいて人とモノとの関係性が特に重要視されている理由、エペリ・ハウオファをとりまくオセアニアの芸術家の動向などが議論された。
(関西地区例会幹事:飯高伸五)
2011年11月29日
各位
日本オセアニア学会員の皆様
本年度の関西地区研究例会のスケジュールが決定しましたのでお知らせします。