2016年度 日本オセアニア学会関東地区例会

最終更新:2017年4月1日


2016年度 日本オセアニア学会関東地区例会のお知らせ

関東地区例会幹事の馬場淳@和光大です。

今年度の関東地区例会を下記のとおり開催いたします。

年始のお忙しい時期ではありますが、万障お繰り合わせの上ご参集くださいますようお願い申し上げます。

日時:
2017年1月7日(土) 13:00〜17:00
場所:
お茶の水女子大学・共通講義棟1号館402
テーマ:
現代ミクロネシアにおける社会性と政治的自律性の想像/創造

<タイムテーブル>

13:00〜13:50 第1発表:長島怜央さん(法政大学)

演題:グアムの脱植民地化運動とカラーブラインド・イデオロギーの相克――政治的地位に関する住民投票をめぐって――

発表要旨:

 グアムではチャモロ人の先住民としての自己決定権や土地権を求める住民運動が展開されてきた一方で、それらは白人などの非チャモロ人に対する逆差別になるのではないかという懸念を持つ人びとも存在してきた。後者が言及してきたのは、「カラーブラインド(肌の色を考慮しない)」という差別を禁じる原理に抵触することによって違憲と見なされる可能性である。事実、ハワイ先住民局(OHA)に関する連邦最高裁の判決(「ライス判決」)以降は、グアムのチャモロ人の権利に対するバックラッシュも活発化している。このような対立は、アメリカのグアム植民地支配という歴史的不正義をめぐるものと捉えることができる。

 本報告では、住民投票によるチャモロ人の自己決定権行使を求める運動とそれに対するバックラッシュを取り上げ、過去の植民地支配の記憶/忘却をカラーブラインド・イデオロギーあるいはアメリカ・ナショナリズムとの関係で考察する。拙著『アメリカとグアム』では対象としなかった2011年以降の興味深い動向も紹介する。

13:50〜14:10 コメント:深山直子さん(首都大学東京)

14:10〜14:25 質疑応答

  休憩(10分)

14:35〜15:25 第2発表:紺屋あかりさん(お茶の水女子大学)

演題:パラオの詠唱をめぐる知識・財・身体の贈与と交換

発表要旨:

 本発表では、西太平洋島嶼パラオの詠唱実践を対象として、植民地期以降の国民文化の形成過程について検討する。その際、詠唱によって生み出される人間-非人間の関係性と、詠唱を生み出すための知識と財の移動性という、二つの異なる贈与と交換に着目して検討をすすめる。

 19世紀以降の植民地経験(スペイン・ドイツ・日本・アメリカ)、そして1994年の独立を経て近代国家へと、パラオは一世紀のうちにめまぐるしく変化してきた。この変動のさなかにあって、人びとはいかに詠唱の場をうみだし、詠ってきたのか。

 パラオの詠唱をめぐっては、伝統から近代といった単線的な変化の中においてのみ説明し得ない、複雑さや曖昧さがみられる。詠唱は、国民国家形成期において次第に政治的パフォーマティビティを高めながらも、一定の神聖的領域を保ちつつ、村落から全島を包含するあらゆる場面で繰りかえされている。

 本発表では、いくつかの詠唱事例を提示しながら、現代のパラオ社会において、知識・財・身体がいかに贈与、交換されているのか、そして、詠唱によっていかなる集合性が生成されているのかについて考察する。

15:25〜15:45 コメント:棚橋訓さん(お茶の水女子大学)

15:45〜16:00 質疑応答

  休憩(10分)

16:10〜16:50 全体討論

※研究会終了後、懇親会を行います。



2016年度日本オセアニア学会関東地区例会の報告

2017年1月7日(土曜日)、お茶の水女子大学にて2016年度の関東地区研究例会が「現代ミクロネシアにおける社会性と政治的自律性の想像/創造」をテーマに開催されました。

■発表1「グアムの脱植民地化運動とカラーブラインド・イデオロギーの相克――政治的地位に関する住民投票をめぐって」

発表者:長島怜央(法政大学)

コメンテータ:深山直子(首都大学東京)

長島さんは、日本オセアニア学会賞受賞作『アメリカとグアム』では扱わなかった2011年以降の動向も踏まえて、住民投票によるチャモロ人の自己決定権行使を求める運動とそれに対するバックラッシュを取り上げ、過去の植民地支配の記憶/忘却をカラーブラインド・イデオロギーあるいはアメリカ・ナショナリズムとの関係で考察してくださいました。深山さんは、ニュージーランド・マオリの事例と比較検討しながら、先住民運動と住民運動の境界について問題を提起しました。

■発表2「パラオの詠唱をめぐる知識・財・身体の贈与と交換」

発表者:紺屋あかり(お茶の水女子大学)

コメンテータ:棚橋 訓(お茶の水女子大学)

紺屋さんは、パラオにおいて様々な機会で歌われる詠唱を具体的に取り上げ、それを通して贈与交換の拡張と(詠唱が生み出す)集合性について考察してくださいました。報告では、紺屋さんが収集したさまざまなパターンの詠唱とその翻訳、実際の詠唱の光景(ビデオ)が示されました。棚橋さんは、詠唱を言語行為論や「エージェンシーの停止」という視点から見ることで、発表とは異なる議論のアリーナの可能性を示しました。

最後に、今回の関東地区例会のテーマ「現代ミクロネシアにおける社会性と政治的自律性の想像/創造」をめぐり、全体討論を行いました。紙幅の関係上、各コメントを紹介できませんが、総じて文化の政治学、運動をめぐる多声性、先住民の地位、歴史的コンテクスト(脱植民地期におけるミクロネシアの分裂や9.11の影響)などに関わる問題が提起されたことを記しておきます。発表者・コメンテータを含む19名が参加した本例会は盛況のうちに終わりました。

(関東地区例会幹事:馬場淳)


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