太平洋の一隅を占める日本列島に生まれ育った私たち日本人にとって、太平洋は単になじみぶかいという以上に、生活から切り離して考えることのできないほど大きな存在であります。
二十一世紀をむかえるにあたり、「アジア・太平洋の時代」などの標語で、太平洋地域の国際関係や経済発展の重要性が認識されております。同時に、毎年かなりの数の日本人が、「南国の楽園」へ観光に訪れる時代になってきております。その意味では、多くの日本人が太平洋に深い関心をもちはじめてきたといえましょう。
ところが、太平洋を占める諸地域=オセアニアについての私たちの認識ともなると、依然としてはなはだ貧弱であることを認めないわけにはいきません。オセアニアには、オーストラリア、ニュージーランドの白人国家のほか、この三十年間に十一の国が植民地から離脱し、近代国家として独自の国づくりをめざし、国際社会の仲間入りを果たしています。それらの国々について、日々の新聞やテレビで報道される情報量は、アジアや欧米についてのそれに比すべくもありません。
このことは、学問研究の傾向にも明瞭にあらわれております。わが国の学者によるオセアニア研究は、アジア研究や欧米研究にくらべいちじるしく立ち遅れ、またオセアニアを視野におさめた日本研究もきわめて乏しいのが現状です。日本のおかれた地理的環境を考えるとき、これははなはだ偏頗なあり方といわなければなりません。
しかしながら、わが国のそうした状況のうちにも、オセアニア研究を志す若手研究者が育ちはじめ、現地調査を行い、数多くの成果を発表する動きが活発化してまいりました。このような情勢を反映した内外の研究者のあいだから、わが国のオセアニア研究の組織化と、情報の交換を要望する声が高まり、私たちは昭和五十二年に「日本オセアニア学会」を設立いたしました。本学会の目的とするところは、わが国におけるオセアニア研究の振興に寄与するとともに、国際的な情報交換と学術交流を促進することであります。現在、内外の二百余名の会員が調査・研究に従事し、その成果を公にしております。研究分野も、文化人類学、民族学、言語学、先史学、人類学、生態学、植物学、遺伝学、医学、経済学、国際関係論、水産学、農学など多岐にわたっております。
本学会は、昭和六十年以来、欧文学術誌 People and Culture in Oceaniaを刊行するとともに、年三回のニューズレターによって研究成果の公表と情報交換をはかっております。そして、年一回の研究大会と、年二回の研究例会を関東地区と関西地区で開催しております。また、昭和六十二年には国際会議を大阪と東京で開催するなど、国際的学術交流も促進してきております。平成五年三月に、日本オセアニア学会は創立十五周年をむかえ、その記念事業として、『オセアニア』という表題で三巻のシリーズ本を東京大学出版会から刊行し、「オセアニア学」の啓蒙にもつとめております。
二十一世紀を視野にいれ、日本とオセアニア諸国のより深い関係と的確な相互理解を推進するために、本学会はオセアニアの人・社会・文化についての基礎的かつ現代的問題を解明すべく一層の研究の発展を目指しております。
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