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学会通信(過去の学会通信

このページは,2018年12月25日に最終更新されました。

※掲載論文については,こちらをご覧ください。


ニューズレターNo.122から

第18回学会賞選考について

こちらのpdfファイルをご覧ください。

第36回日本オセアニア学会研究大会・総会のお知らせ

こちらのpdfファイルをご覧ください。詳細は大会ページをご覧ください。

2018年度関東地区研究例会(第1回)についての報告

こちらのpdfファイルをご覧ください。

2018年度関東地区研究例会(第2回)についてのお知らせ

こちらのpdfファイルをご覧ください。

2018年度関西地区研究例会についてのお知らせ

こちらのpdfファイルをご覧ください。

新刊紹介

大角翠『言語学者のニューカレドニア――メラネシア先住民と暮らして』(大修館書店、2018年9月)

フランスに植民化され、フランス語を公用語・共通語とするニューカレドニアには、28もの土着の言語、現在ではカナクと呼ばれる先住民メラネシア人の言語が存在する。大角はその中で、消滅危機にある二つの少数言語、ティンリン語とネク語というこれまで未踏の研究領域を、前者を1980年代に、後者を2000年代に調査した。両言語は主島グランドテール西側の内陸に点在するカナクの居住村である2-3のトリビュに限定され、話すことができる者も年配者の間にしかいない。著書は、こうした話者から言語調査しながら、カナクのトリビュの人々の間で生活したフィールド・ワークの日々を綴ったものである。

大角は、未知の言語探求において、その言語で表される概念世界を理解することは難解だが、言語と思考の関係性や人間の認知能力についての新たな発見に出会えることにフィールド言語学の醍醐味はあると語っている(160-161頁)。本書は、そうした探求結果としての言語学的発見や記述は随所に登場するが、専門書ではない。インフォーマット探しや話者との試行錯誤のやり取り、トリビュでの家族の暮らし振り、人々の関係性や振舞い、これらと如何に言語や文化が具体的に繋がっているかの会得など、フィールド・ワーカーとして体験した奮闘記である。他者との交換のないフィールド・ワークがないならば、発見のないフィールドはなく(江戸2015: 615)、人々の概念世界を理解し、発見に出会う行為は、言語学のみならず、文化人類学を始め、その他の分野においても共通する醍醐味である。この意味でも、読み易く面白く、一読をお勧めしたい。

著者は、昔の記憶の糸をたぐり寄せながら時系列的に書き起こした(280頁)としているが、昔の記憶を、何故これ程までに、詳細にヴィヴィドに書き起こすことが可能なのであろうか。それは「民族誌的現在」の語りにあろう。フィールド・ワーカーにとって、ローカルな人々と共有した時間と空間は、特別な意味を放つ。調査を終え、後に書き続けることによって、筆者としての「語る主体」は、その時点のフィールドに再節合され、そこでの人々との交換から生まれた交感が蘇り、共有された時空は非時間的な「民族誌的現在」として再現されるからである。これまで大角が調査結果から表した研究書が「客観的実践」ならば、フィールドでのこの体験記は「主観的実践」と云えようが、当著は、客観的実践と主観的実践の間で間主観的に揺れ動きながら、フィールドで格闘する彼女の姿を映している(江戸2015:26)。それは、フィールド・ワーカーなら誰しもが経験することであろう。

(江戸淳子)

【参考文献】
江戸淳子 2015 『ニューカレドニア カナク・アイデンテイの語り』明石書店。
山本真鳥『グローバル化する互酬性――拡大するサモア世界と首長制』(弘文堂、2018年10月)

本書は、著者が総合研究大学院大学(国立民族学博物館)に提出した博士論文に基づくもので、2017年11月に本学会関東地区研究例会で草稿の一部を発表している。本年4月に学振の助成を受け刊行となった。全体の構成は以下のとおりである。

第1章	序論――ファイン・マットをめぐる言説と経済
第2章	サモア社会の概観と成り立ち
第3章	交換システムの基本構造――ファイン・マットと親族間の儀礼交換
第4章	交換財の変容――市場経済への対応と新しい財の取り込み方
第5章	移民と本国社会――サモア移民のトランスナショナリズム
第6章	儀礼交換と称号システム―西サモアにおける首長称号保持者間の役割分化 
第7章	ファイン・マットの行方――ファイン・マット復興運動と儀礼交換
第8章	結論

半分程度は、すでに書いてきた論文を大幅に書き直したもので、また半分程度は書き下ろしとなっている。

地縁関係と血縁関係が複雑に錯綜した首長制に基づくサモア社会は、首長間にランキングの差異はあるものの、競覇的な社会関係が存在していた。近代化と現金経済に巻き込まれることにより、その勢いはますます強いものとなっており、それが表出する儀礼交換――女財と男財の交換を基調とする――においては、女財であるファイン・マットに加えて、現金や缶詰、コーンビーフなどの新しい財が男財として取り込まれるようになっていた。

サモア独立国(旧西サモア)は、第二次大戦後に多くの移民を海外に送り出し、彼らの送金で国家経済も本国の拡大家族の生活も成り立ってきた。移民した息子や娘は定期的送金を行うこともあったが、キョウダイ、オジオバなどとの間では、親族集団のアイデンティティに関わる儀礼交換に伴う送金が専らに行われていた。そうした「移民の貢献」に対し、サモアからは国境をまたいで首長称号名の授与、伝統財としてのファイン・マットの持ち出し・贈与が行われるようになった。

また、それらの儀礼交換に必要なファイン・マットは、本国でも移民社会でも、互酬的交換や市場交換によって調達されるようになり、現金を引き出すものとして需要は高まり、ファイン・マットそのものの品質の粗悪化を招いたといえる。かつては1枚製作するのに半年から1年を要したのが、1990年頃には3日ほどで製作されるようになっていた。さらにまた、移民社会では儀礼交換を行い、ファイン・マットのやりとりを行うことが、サモア人としてのアイデンティティとなり、盛んに儀礼交換が行われ、そのために本国では稀少なファイン・マットが移民社会ではだぶつくほどであった。

一方、首長称号名について、親族集団内でのさまざまな事情で同名の首長称号が複数名に授与される習慣(称号分割)はかつてより存在していた。称号分割は選挙にも関連して独立(1962年)後に盛んに行われるようになった。首長称号名保持者のみが選挙・被選挙権をもつという制度は1990年の制度改正まで続いていたのである。称号分割を通じて、首長称号名は海外移民にも数多く贈られている。サモア人として大変名誉あるものであるが、同時に親族集団をもり立てる義務も負い、送金が期待されていることは言うまでもない。

1990年代になると、かつての良質のファイン・マットを取り戻そうという運動が生じ、政府は女性の現金獲得手段としてこれを奨励する活動を始め、ファイン・マット生産には新たな局面が生じている。政府のこの動きは、ファイン・マットの市場を作り出したが、たいそう高価なものなので、現在ではまだごく少数の金持ちが、特別な儀礼のために購入して保持するものに過ぎず、儀礼交換に登場することは少ない。

ファイン・マットが市場に登場するようになって久しく、政府の奨励する精巧で高価なものが市場経済に送り込む目的で製作されていることは、ファイン・マットの商品化を加速化している。しかし、そもそもファイン・マットが市場で取引されているのは、儀礼交換に用いられるためであることに注目する必要がある。高価なものが購買されて、衣装箱の底に貴重品としてしまわれていても、それは骨董品ではなく、しかるべきときにしかるべき人に贈られるためである。互酬的贈与交換こそが、ファイン・マットの商品的価値を生んでいるのであり、互酬性は未だこの社会では重要である。海外からの送金も同様に互酬性に基づいているのである。

かなり堅い学術書として高価なので、購入をためらう方は多いと思うが、是非図書館で購入をお願いしたい。

(著者)

学会通信

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日本オセアニア学会ニューズレターでは、論文・報告・新刊紹介の寄稿を随時受け付けております。

その他、寄稿に関わるご相談は、下記までお問い合せください。

寄稿先/お問い合わせ先

編集委員  馬場 淳(理事)junbaba[アットマーク]wako.ac.jp




ニューズレターNo.121から

第35回総会の報告

2018年3月22日(木)、第35回日本オセアニア学会研究大会会場(沖縄美ら海水族館イベントホール)において、同学会総会が開催されました。議事は、以下の通りです。

審議事項

1.2017年度決算
・2017年度決算(2017年3月1日~2018年2月29日)について、倉田誠会計理事より説明があり、承認されました。
・会計監査は、柄木田康之会員、古澤拓郎会員によって行われました。
2.2017年度事業報告
下記の事業報告が審議され、承認されました。
  • People and Culture in Oceania vol.33の刊行(89 pp.:論文3本、通信1本、書評1本)
  • NEWSLETTER no.118、119、120の刊行(論文4本、報告2本、新刊紹介7本)
  • 研究例会の実施
    • 関東地区 2017年11月25日 東京医科大学 発表2本
    • 関西地区 2018年1月20日 同志社大学 発表2本
  • 40周年記念シンポ「ウミとシマの世界を見る眼―オセアニア研究のこれまで、いま、そして、これから」の実施
    2018年3月21日 沖縄県立博物館・美術館講堂
    (日本オセアニア学会創立40周年記念事業準備委員会長:棚橋訓会員)
  • 第35回研究大会・総会の実施
    2018年3月22-23日 海洋博公園内・美ら海水族館イベントホール
    (大会長:後藤明会員、小西潤子会員)
  • JCASA等の活動
  • 石川栄吉賞の選考(対象者なし)
  • 第17回日本オセアニア学会賞の選考と授与
3.2018年度事業計画
下記の事業計画が審議の結果、承認されました。
・People and Culture in Oceania vol.34の刊行
・NEWSLETTER no.121、122、123の刊行
・関西地区・関東地区研究例会の実施
・第36回研究大会・総会の実施
・JCASA等の活動
・石川栄吉賞の選考
・第18回日本オセアニア学会賞の募集
・評議員選挙の実施
4.2018年度予算案(別紙参照)
2018年度予算(2018年3月1日~2019年2月28日)について、倉田誠会計理事よ り説明があり承認されました。
5. 入退会に係る規定の変更について(「学会通信」欄参照)

報告事項

  1. >第17回日本オセアニア学会賞を早稲田大学の里見龍樹会員(受賞作品『「海に住まうこと」の民族誌―ソロモン諸島マライタ島北部における社会的動態と自然環境』)に授与するとの理事会決定が報告されました。なお、学会賞に対して、日本オセアニア交流協会より副賞をいただきました。学会賞選考委員会からの報告は、以下、別記事として掲載されております。
  2. 沖縄美ら島財団が賛助会員となることが報告されました。
  3. 第36回研究大会・総会は、首都大学東京の深山直子会員を大会長として開催予定であることが報告されました。

第17回日本オセアニア学会賞について

こちらをご覧ください。

第18回日本オセアニア学会賞選考要項

2018年度日本オセアニア学会賞選考委員会

  1. 本学会賞受賞資格者は本学会会員で、対象となる著書または論文の刊行時に原則として40歳未満とする。対象となる著書または論文は1編とし、2017年1月1日から2018年12月31日までに刊行されたものとする。なお、該当する著書または論文が複数の著者によるものの場合は、筆頭著者のものに限定する。
  2. 候補者の応募は自薦あるいは本学会員からの他薦による。他薦による場合は、他薦者は被推薦者(候補者)の了解を得ていることが望ましい。
  3. 自薦の場合は、選考対象となる著書または論文について、1部以上を日本オセアニア学会事務局宛に送付するものとする。送付に際し、連絡先(住所、FAX番号、E-mailアドレス)を明記するものとする。
  4. 他薦の場合は、推薦者の氏名と被推薦者(候補者)の氏名、被推薦者の連絡先(住所、FAX番号、E-mailアドレス)、および被推薦者の選考対象となる著書または論文名を明記する。雑誌論文の場合は、雑誌名、巻号、出版年を、著書の場合は著書名(分担執筆の場合は、担当章のタイトルと著書のタイトル、編者名)、出版社、出版年を明記する。この場合も、著書または論文をオセアニア学会事務局に送付することが望ま しいが、送付されていない場合でも受理する。なお、推薦理由が必要であると判断する場合は、200字以内の推薦文を添付してもよい。
  5. 応募期間は2018年11月1日から2019年1月15日まで(必着)とする。
  6. 送付先は下記とする。自薦の場合は、著書または論文を同封する必要があるので、 郵便ないしは宅配便で送付することし、他薦の場合は郵便以外にE-mailでも受け付けることとする。

    (日本オセアニア学会事務局)
    〒565-8511 大阪府吹田市千里万博公園10-1 国立民族学博物館
    丹羽典生研究室 宛て
    TEL 06-6876-2151(代)FAX 06-6878-7503(代)
    E-mail: secretary[アットマーク]jsos.net

  7. 事務局は自薦および他薦の書類を受領してから1週間以内に、受領した旨の連絡をし、受領書類を選考委員長へ郵送する。
  8. 2019年1月15日以降、選考委員会は厳格な審査を行い、その結果を本年度の本学会総会の開催前に理事会に報告する。

<注 記>

  1. 応募者はPCOに論文を掲載したことがあるか、掲載したことがない場合は、受賞後数年内にPCOへ投稿することが望まれます。
  2. 選考を円滑に進めるため、すでに刊行されている書籍または論文については、募集期間が始まり次第、速やかに、応募して下さるようお願いします。
  3. オセアニア地域に関わるあらゆる研究分野の作品が対象となっています。

日本オセアニア学会賞規定

第1条(目的)
日本オセアニア学会はオセアニア地域における人間、文化、社会、環境などの研究の振興を目的とし、「日本オセアニア学会賞」を制定する。
第2条(資格)
日本オセアニア学会員であること。
第3条(対象)
オセアニア地域研究に関し、前年度及び前々年度において最も優秀な著書又は論文を公にした個人。但し、刊行時において原則として満40歳未満の者とする。
2 賞の授与は各年度1名とする。
第4条(選出方法)
賞の選考は理事会が委嘱した5名の日本オセアニア学会賞選考委員が行う。
2 以上の選考結果に基づき理事会が受賞者を決定する。
第5条(賞の授与)
賞の授与は日本オセアニア学会総会で行う。
第6条(賞状・報奨金)
受賞者には賞状ならびに日本オセアニア交流協会(学校法人園田学園)基金より副賞を贈呈する。
附則
この規定は平成13年4月1日より施行する。

【新刊紹介】

浅井優一『儀礼のセミオティクス:メラネシア・フィジーにおける神話/詩的テクストの言語人類学的研究』(三元社、2017年2月)
本書は、南太平洋のフィジー諸島ダワサム地域において、約30年ぶりに開催された最高首長の即位儀礼、およびその開催の是非を巡り地域を二分した政治的対立の顛末 を、植民地期に作成された古文書、即位儀礼で為された儀礼的発話、地域の古老たち が従事する神話の語り、政府による儀礼の映像記録など、2年に及ぶフィールドワークで得られた様々なテクストの記述・分析を通して審らかにしようと試みたモノグラ フです。以下では、本書が扱うフィジーでの事例を概略した上で、その主な論点を2点に絞り紹介したいと思います。オセアニア地域での研究に従事される皆様に是非と も一読して頂き、ご批判を頂ければ幸い至極に存じます。
フィジー諸島のダワサム地域では、28年間、最高首長が不在であった。その根底にあるのは、イギリス植民地政策下で作成された文書(『一般証言』および『氏族登録台帳』)が規定する各氏族の歴史と、神話の語りを通して伝えられる伝承の間の齟齬であ った。ダワサム地域の古老たちは、この両者の間に生じた齟齬を正そうと試みてきたが、氏族間や氏族内部での対立や歪められた歴史への確執から幾度となく断念されてきた。こうした状況下、当該地域の一氏族であるヴォニ氏族は、自らが首長を即位さ せる義務を負った集団であると主張し、2009年頃から最高首長の即位儀礼開催の画策に乗り出す。そうした画策の中で、彼らが出会ったデライ氏族による神話の語りと、 ヴォニ氏族が「文書以前」から受け継いできたとする神話、この両テクストに一貫した等価性が認められ、氏族の正統な来歴と系譜が解き明かされることになる。この両氏族の神話的邂逅が契機となり、長年放置されてきた即位儀礼が執り行われる機運が 広まった。デライ氏族の長老は、著者に対し、即位儀礼の開催の意義を次のように伝えている。「おまえは、祖先神が話す、とは何のことか知っているか? これは上から降りてきた啓示である、上にあるかつての村から、私たちが、その道に沿って進むために。」そして、フィジー政府の地方知事を交えた会議においても儀礼の開催が承認され、この啓示の通り、儀礼の過程は、神話の構図に沿う形で、植民地期の文書に反する仕方で実施された(2010年4月)。儀礼の一部始終は、フィジー言語文化研究所の役人によりビデオ映像として記録され、100分程度のDVDとしてアーカイヴ化された。
1 書誌情報http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/423.htm
以上の通り、本書は、A. M. ホカートの王権論やマーシャル・サーリンズによる構造歴史人類学の試み以来、オセアニア人類学の中心的な研究課題をなしてきたフィジー諸島における儀礼、神話、歴史といった事象を扱っており、その上で、本書は、言語人類学および記号論の視座から切り込んでいる。特に、レヴィ=ストロース構造人類学に理論的基盤を提供したローマン・ヤコブソンの詩的言語に纏わる洞察とチャールズ・パースの記号論を融合的に発展させた言語人類学者マイケル・シルヴァスティンの儀礼コミュニケーション理論を参照軸とし、フィジー語で書き起こしたテクスト(植民地政府の文字資料、古老による神話の語り、公的会議の談話記録、即位儀礼での定型的スピーチ、儀礼の映像記録など)を、その叙述形式や形態論的特徴から丹念 に記述することを通して、神話と歴史が儀礼を契機に生起し絡み合うことを詳らかにしている。そして、言語使用の綿密な考察を民族誌記述の中心に据えることを通して、 文化研究と言語研究の接合を可能にすると同時に、サーリンズの認識論、ニコラス・ トーマスの歴史人類学やポストコロニアリズム、さらにマリリン・ストラザーンのメラネシア人格論、およびそれを柱の一つにして拡がった存在論的人類学の連関を、ヤ コブソンやパースの記号論に依拠して体系的に捉え直している。
また本書は、19世紀フィジーの英領植民地期の公文書の記述形式と調査地域での古老が従事する神話的語りの叙述形式を比較対照し、前者が氏族集団の連合としての地域を、首長を頂点に据えて「階層的」に記述する形式(ハイポタクシス; hypotaxis)を 有するのに対し、後者は「並列的」に叙述する形式(パラタクシス; parataxis)をもつことを明らかにし、そうした神話記述のスタイルの相違が、社会秩序の生成に関する記号論的な変遷に基づくものであることを指摘している。さらに、政府の文書と土地の神話の齟齬に疑念を抱く氏族集団が、その齟齬を正そうと画策する中で、集団各々 が受け継いできた神話の断片に整合性を見出し、氏族の正統的な来歴と系譜を解き明かす様子、および古老たちが地域の原初の姿として理解した神話を象った即位儀礼が実行され、植民地期以降、文書が規定してきた社会秩序の覆しが図られる過程を、儀礼的発話や儀礼における時空間の構成に関する分析に基づいて詳らかにしている。以上を通して、本書は、ミクロな政治的対立に焦点を当て、それを通じて創出される現代フィジーのマクロな文化的秩序の史的変容を明らかにしながら、この両者を統合しうる理論的枠組みの提示を試みている。
(著者)
小林 誠『探求の民族誌――ポリネシア・ツバルの神話と首長制の「真実」をめぐって』(御茶の水書房、2018年1月)
「何が真実の伝統なのだろうか」。こう問うていたのは人類学者である私ではなく、「現地の人々」であった。2000年代に行ったツバル・ナヌメア環礁でのフィールドワークで私が気づいたのは、ナヌメアの人々は伝統をかたくなに守り続けていたわけでも、柔軟に実践していたわけでも、ましてやそれを創造していたわけでもないことであった。そうではなく、彼らは何が「真実」の伝統なのかを探し求めていたのである。 本書はそれをとらえるべく書かれた民族誌であり、伝統それ自体ではなく、伝統をめぐる彼らの探求を記述・分析することを目的としたものである。それによって、伝統をめぐる複数の真実を浮き彫りにするとともに、個々の真実が併存、対立、交渉する様態をも明らかにする。また、人類学者とナヌメアの人々の探求を同一地平上に位置付けて論じ、人類学者の営みそのものを相対化する。以下に構成を記す。
序章 神話と首長制をめぐる探求
第一部 ナヌメア
第1章 過去と現在
第2章 移動と島を越えた広がり
第二部 記録する――研究者の視点
第3章 研究されるツバル
第4章 ある人類学者のフィールドワーク
第三部 合意する――首都にて
第5章 神話の憲章作成
第6章 首長制の成文化
第四部 実践する――ナヌメアにて
第7章 調査を始めた元調査助手
第8章 首長になれない男の主張
終章 探求の「真実」
検討の中心となるのは、神話と首長制をめぐる西洋人研究者、首都フナフティ環礁在住のナヌメア人、ホームランドであるナヌメア環礁のナヌメア人によるそれぞれの 探求である。まず、序章では、神話と首長制を中心に伝統をめぐる既存の人類学的研究を再検討し、これまでの議論が伝統の可変性と操作性を強調していた点を指摘し、 土着の認識論・方法論を援用しながら、本書の核となる探求という鍵概念を提示する。
続く第一部では基礎的な情報をまとめる。第1章で、ナヌメアの歴史と現在の状況を概観し、第2章では、ナヌメア社会がホームランド以外の場所にいるナヌメア人によってディアスポラ的に編成されていることを示す。
第二部では外部の西洋人研究者による探求を扱い、その特徴を真実の記録と論じる。 第3章でツバルについての先行研究を簡潔に整理し、伝統を本質的に描く研究から、 その可変性と操作性を指摘する研究へと転換した背景を論じる。第4章では、ナヌメアにおける人類学的調査の草分けである人類学者キース・チェンバースのフィールド ワークおよび、彼が著した民族誌を詳細に検討し、彼の調査・研究が現地の人々との 関係性のなかでいかにかたちづくられてきたのかを明らかにする。
第三部では首都在住のナヌメア人による探求を検討し、その特徴を真実をめぐる合 意の形成にあると論じる。第5章で神話にまつわる「憲章」作成プロジェクトをとりあげ、首都在住のナヌメア人が多様なバリエーションの神話テクストを分析し、すべての人々が合意できるような真実の神話の提示を試みてきたことを明らかにする。第 6章では首長制の成文化をとりあげ、首長制の真実のかたちについてのとりあえずの 合意が形成された反面、それが遵守されなかった理由を明らかする。
第四部ではホームランドであるナヌメア在住のナヌメア人による探求について検討し、その特徴を日常的な実践と密接に繋がっていることにあると論じる。第7章でチェンバースの元調査助手で、神話と首長制について独自に探求した男性をとりあげる。彼がチェンバースの帰国後、いかに独自の調査を実施し、そして、いかにそこから得られた知見が真実であることを「証明」しようとしたのかを論じる。第8章では、首長になれないクランに属する男性を取り上げ、彼が伝承した神話と彼が実践した首長制を事例に、神話と首長制をめぐる真実の探求を日常的かつ具体的実践の中から描きだす。
終章では、それぞれの探求の連なりと断絶をまとめたうえで、真実をめぐる状況依存性、多元性を簡潔にまとめ、筆者自身の状況依存性についても自省的に捉え返す。 本書全体を通して、ナヌメアの人々がいかに確実な真実を見出そうしてきたのかと、それにもかかわらず真実が不確実なままにとどまってきた理由が現地の真実観を基に 明らかにされる。
(著者)
小野林太郎・長津一史・印東道子(編)『海民の移動誌――西太平洋のネットワーク社会』(昭和堂、2018年3月)
海域アジアやオセアニアには、海と密接に関わりながら暮らしてきた「海民」ともよべる人々、あるいは積極的なネットワーク形成を生活基盤とする社会が各地にみら れる。本書は、こうした西太平洋圏の海民に代表されるネットワーク社会の普遍性や 地域性を、その分布に関する時間と空間双方の面での比較を通じて、人類史的な視点 から論じる。このうち時間軸においては、私たち現生人類(ホモ・サピエンス)がこ の海域に登場してくる約5万年間の幅をもつ考古学的時間(実質的には約4000年前の 新石器時代以降に主眼をおく)と、約100年間の幅をもつ民族誌的時間の両軸からの 検討を試みた。
一方、本書が対象とする空間は、日本を含む東アジア、東南アジア、オセアニアの 3つの海域世界である。本書の構成も、これらの海域世界に対応する形で三部構成と し、これに序論・総論からなる一部を加え、計13本の論文と5本のコラムより構成した。さらに海域別の三部は、いずれも考古学的時間軸と民族誌的時間軸に基づき、各 海域におけるネットワーク社会の過去と現在が論じられる。紙面の関係もあるため、 ここでは各章とコラムのタイトル、および各執筆者のみ以下に紹介する。
(本書の目次・構成)
第1部 序論
第1章 海民の移動誌とその視座
(小野林太郎・長津一史・印東道子)
第2章 海のエスノ・ネットワーク論と海民―異文化交流の担い手は誰か
(秋道智彌)
第3章 マダガスカル島と海域アジアを結ぶネットワーク
(飯田卓)
第2部 東南アジアの海域世界
第4章 海域東南アジアの先史時代とネットワークの成立過程―「海民」の基層文化論
(田中和彦・小野林太郎)
第5章 耳飾が語る金属器時代東南アジアの海域ネットワーク
(深山絵実梨)
第6章 東南アジアにみる海民の移動とネットワーク―西セレベス海道に焦点をおいて
(長津一史)
第7章 〈踊り場〉のネットワーク―モーケンと仲買人の関係性に着目して
(鈴木佑記)
コラム1 海民の土器を追いかけて―南シナ海とタイ湾を貫いた鉄器時代のネットワーク
(山形眞理子)
コラム2 海産物の開発をめぐる同時代史―ナマコの事例から
(赤嶺淳)
第3部 東アジアの海域世界
第8章 海を渡り、島を移動して生きた最初期の「海民的」人びと―宮古・八重山諸島の先史時代からみた海域ネットワーク
(山極海嗣)
第9章 中世・近世期における八重山諸島とその島嶼間ネットワーク
(島袋綾野)
第10章 糸満漁民の移住とネットワークの動態
(玉城毅)
コラム3 海底遺跡が語る琉球王国時代―近代の海上ネットワーク
(片桐千亜紀)
コラム4 日本のシイラ利用からみる海と山のネットワーク
(橋村修)
第4部 オセアニアの海域世界
第11章 先史オセアニアの海域ネットワーク―オセアニアに進出したラピタ人と海民論
(小野林太郎)
第12章 オセアニアの島嶼間ネットワークとその形成過程
(印東道子)
第13章 ムシロガイ交易からみる地域―進行形のネットワーク記述に向けて
(深田淳太郎)
コラム5 海域ネットワークが生み出したリモートオセアニアの島嶼
(山口徹)
さて、こうしたネットワーク社会のメインアクターとして、本書では海民に注目す る。このうち日本における海民論は、これまで民俗学や歴史学の分野で展開されてき た。たとえば民俗学者の宮本常一は、海民の生業が「半農半漁」であることに注目し つつ、近世以降に瀬戸内海や九州沿海に暮らす家船民をより専業的漁民としての性格 が強い「海人」と指摘した(宮本1964,1992)。一方、歴史学の視点から海民研究を展開した網野善彦は海で暮らす「非農耕民」として、漁業から略奪といった海賊行為に いたる様々な生業を完全に分化させることなく担っていた人びとを「海民」と呼んだ。 またそうした海民的集団の出現期を縄文時代晩期頃まで遡る可能性を指摘している (網野1992,1998)。
これらの先行研究に従いつつ、私たちも海民の出現期として、農耕や家畜飼育が出 現したとされる新石器時代に注目した。考古・人類学的にも「半農半漁」的な生業形 態は新石器時代期以降に出現したと考えられている。また東南アジアやオセアニア海 域における新石器時代は、南中国の沿岸域から台湾辺りが起源地と推測される新石器集団の新たな移住により、4000~3300年前頃に始まったとする説が有力である。この年代は網野が日本における海民の出現期として注目した縄文晩期頃とほぼ一致する。 しかし、先行研究においては、先史時代にあたる新石器時代期にまで遡り、考古学的 成果も踏まえながら展開された海民研究はなく、本書がその初の試みとなった。
しかしその一方で、主に物質文化や出土した遺物からアプローチする考古学のみでは、先史時代における海民の社会や文化、その移動やネットワークの実態に迫るのは 至難の業で、限界もあった。本書ではこうした限界を補い、海民たちの移動やネット ワークの実態を鮮明かつ詳細に描き出す役割を民族誌的時間軸から論じた各章が担っている。もちろん、近世期以降の様々な経済・技術的変化や人口変動等の影響を受け る中で展開されてきた海民たちの移動やネットワーク社会が、数千年前の先史時代に おける「海民」と想定されるような人びとのそれと全く同一だったとは考えられない。この時代的差異は、今後どれだけデータが精緻化されたとしても、容易には乗り越えられない壁であろう。
それでも考古学的資料からおぼろげに浮かび上がってくる先史時代の「海民」の移動やネットワークの背後にある原理と、近世期以降のこの約100年間に各地で暮らしてきた海民と認識できる人々のそれに似ている部分は多々あることを本書では示すことができた。その共通性が文化的系譜や環境への適応による結果に基づくのか、といった議論は今後の課題である。このように新たな課題も少なくないが、それでも本書 は考古学・文化人類学・生態人類学・民俗学を軸とした学際的な海民研究の現在と未 来を示した論集として、新たな一歩を切り開けたのではないかと自負している。ぜひ一読して頂けると幸いである。
なお本書は、国立民族学博物館の共同研究「アジア・オセアニアにおける海域ネッ トワーク社会の人類史的研究――資源利用と物質文化の時空間比較」(代表:小野林太郎)において、本書の章・コラムを執筆したメンバーらによって約3年半にわたり検 討してきた研究成果ともなっている点を最後に付け加えておきたい。
【引用文献】
網野善彦 1992 『海と列島の中世』、日本エディタースクール出版部。
網野善彦 1998 『海民と日本社会』、新人物往来社。
宮本常一 1964 『海に生きる人びと』(日本民衆史 3)、未來社。
宮本常一 1992 『瀬戸内海の研究――島嶼の開発とその社会形成、海人の定住を中心に』、未來社。
(編者=小野林太郎)

学会通信

今後の研究大会の開催方針及び今年度の研究大会について

会長 山本真鳥

今年はもう東京は梅雨明けだそうで、暑い夏が既に始まっているようです。蒸し暑いさなかではありますが、会員の皆様におかれましては、ご清祥のことと存じ上げます。

さて、本年の学会創設40周年記念行事及び研究大会で沖縄においでの会員には、既にご承知いただいていると思いますが、今後の研究大会のあり方についてお知らせ申し上げます。

これまで、学会規則等で決められていたわけではないのですが、研究大会は温泉地で開催するという前例が積み重ねられてきました。この合宿型の研究大会は、我々のような小さな学会には、親睦を深めるという意味で多いに利がありました。ここで培 われたオセアニア研究者の仲間意識は並大抵のものではなく、強い絆で結ばれて今日に至っております。

その意味では大変残念なのですが、温泉地での開催は、主催をお願いする方に実は大変負担がかかります。これまで主催されてきた方々には深く重ねて感謝する次第ですが、そろそろ毎年この体制を維持するのは難しくなってきました。大きな要因は会員の減少で、ひところ300人を超えていた会員数が現在では200名近くになっております。会員数を増やす努力は今後も重ねて参りますが、それと並行して研究大会の負担を軽くするため、総会でご承認いただきましたように都市と温泉での隔年開催する方向で考えております。

以上の方針を考慮しまして、本年度の研究大会は以下の日程と場所で開催予定です。

日程:
2019年3月25日(月)~26日(火)
場所:
首都大学東京 南大沢キャンパス

首都大学東京の深山直子会員が、研究大会の会場と懇親会の場を用意してくださる予定です。ただし、宿泊は各自ご用意ください。次年度には、温泉地での開催ができるようただいま交渉を継続中です。

以上の方向性につき、ご理解賜りますよう、お願い申し上げます。

入退会方法の変更について

入会に関わる規定(日本オセアニア学会会則7条1)を、審議過程の効率化を図るため以下の形で変更する。変更する語句の箇所は、下線で示してある。

<現行>
第 7 条
前条各会員の入会手続きは次のように定める。
1. 通常会員として入会しようとする者は本会に申しで、評議員会の承認を得るものとする。
<改正案>
第 7 条
前条各会員の入会手続きは次のように定める。
1. 通常会員として入会しようとする者は本会に申しで、理事会の承認を得るものとする。

*退会については、「第9条 退会を希望する会員は、その旨を本会に申し出るものとする。」という規定がある。評議員会での承認は従前から必要とされていなかった。上記の変更にあわせて、理事会で退会の申し出があった旨報告することとする。

所属変更

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