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学会通信(過去の学会通信

このページは,2017年4月1日に最終更新されました。


ニューズレターNo.117から

第34回日本オセアニア学会研究大会・総会のお知らせ

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2016年度関東地区例会の報告

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2016年度関西地区例会の報告

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【新刊紹介】

窪田幸子(監修)窪田幸子・カーティ、ジョン・ダヴェンポート、カーリー・池澤夏樹・石井竜也・石川直樹・上橋菜穂子・北川フラム(著)『ワンロード――現代アボリジニ・アートの世界』(現代企画室、2016年)

記憶されることなく老人たちの頭のなかにある、過去に起こった出来事について私たちは話したい。鉛筆や紙はない。白人の歴史はこれまで語られてきたし、それは書物に記録されている。しかし、私たちの歴史は記録されない。私たちは絵画を通して歴史を語らなくてはならないのだ。

クリフォード・ブルックス(2007年)
(本書101ページ掲載)

本書は、2016年6月より、大阪・国立民族学博物館を皮切りにして、香川県立ミュージアム、そして千葉県にある市原湖畔美術館で開催された現代アボリジニ・アートの展覧会「ワンロード展」の公式カタログである。
タイトルにある「ワンロード」とは、オーストラリア大陸の西部地域を南北に縦断する1850キロメートルにもおよぶ一本道のことである。食肉用の牛を北部の牧場地から南部にある食肉市場に移動させるために1906年に拓かれたこの道は、その測量を行ったアルフレッド・キャニングにちなんで<キャニング牛追いルート>と命名された。1959年に閉鎖されるまで、この道はオーストラリアの西部地域を支える重要な役割を果たしたのだった。
キャニング牛追いルートは、ヨーロッパからやって来た入植者たちによる開拓の歴史を象徴するもののひとつである。しかしその裏には、先住民であるアボリジニたちの迫害や抑圧の歴史もあった。キャニング牛追いルートは、アボリジニたちが生きてゆくためだけでなく、精神的にも重要な水場を奪い、また、彼らの精神的な支柱であるカントリーを分断して建設された。しかし、こうしたヨーロッパ系入植者たちによる開拓の歴史が、オーストラリアの歴史の表舞台において、アボリジニたちの視点から語られることは、これまでほとんどなかった。
キャニング牛追いルートが拓かれてから約100年後の2007年、西オーストラリア州のパースを拠点に活動する非営利団体FORMとオーストラリア国立博物館が中心となって「キャニング牛追いルート・プロジェクト」が始められた。このプロジェクトは、キャニング牛追いルートの歴史を、アボリジニたちの視点から描く試みである。かつてそのルートに住んでいたアボリジニとその子孫である60名あまりのアボリジニ・アーティストたちが6週間をかけてそのルートを旅し、その途中でワークショップを開催して絵を描いた。彼らは、絵画を通して、自分たちのカントリーやドリーミングを、「白人」たちと遭遇し、そこで起こった出来事を、そしてキャニング牛追いルートが彼らの生活に与えた影響を、自らの視点から表現し語ったのである。最終的に、このプロジェクトを通じて、120点あまりの絵画のほか、映像や写真、オーラルヒストリーなどが、彼らの記憶・歴史として残された。
ワンロード展は、このプロジェクトから生まれた作品を中心として、2010年にオーストラリア国立博物館で開催された展覧会「イワラ・クジュ:キャニング・ストック・ルート」をもとに企画されたものである。本書には、今回の展覧会のために、オーストラリア国立博物館が所属するキャニング牛追いルート・コレクションの中から選び抜かれた33点の絵画が、色鮮やかなカラー写真で収録されている。各作品には、その詳細な解説とアボリジニたち自身の語りやメッセージも掲載されており、アボリジニ・アートの魅力とその奥深さを感じ取ることができる。さらに本書に収められているジョン・カーティ、カーリー・ダヴェンポート、窪田幸子らによる解説文は、今回のワンロード展とその背景を、そして現代アボリジニ・アートの世界をより深く理解するための手助けとなっている。
最後に、昨年から全国各地を巡回してきたワンロード展は4月7日~5月7日まで北海道の釧路市立美術館で開催される。機会があれば、ぜひ足を運んでいただきたい。(訳者=川崎和也)
里見龍樹(著)『「海に住まうこと」の民族誌――ソロモン諸島マライタ島北部における社会的動態と自然環境』(風響社、2017年)
南西太平洋、ソロモン諸島マライタ島の北東岸に広がるサンゴ礁には、アシ(海の民)またはラウと呼ばれる人々が岩を積み上げて築いた人工の島が90以上点在している。本書は、アシの人々が営んできた特徴的な海上生活、現地語では「海に住まうこと(トーラー・イ・アシ)」を取り巻く現代的動態を、多角的・総合的に明らかにする民族誌である。なお本書のもととなった博士論文は、一高記念賞ならびに第15回アジア太平洋研究賞(井植記念賞)を受賞している。
一見伝統的な生活を営んでいるかに見える今日のアシには、一方で自分たちの「海に住まうこと」の現状を受け入れつつ、他方で同時に、それとはまったく異なる生活のあり方を不断に想像しているという、不安定で二面的な状況が認められる。このことは例えば、人口増と耕地不足への懸念から、近い将来にマライタ島内陸部に移住しようという多くの人々の構想に見て取れる。本書では、そのように人々が異なる居住・生活の可能性の間で揺れ動き続けている状況を、「住まうこと」の偶有性(別様でありうること)として概念化する。その上で本書の各章は、親族関係、歴史意識や生業活動など多様な主題に即して、アシの「海に住まうこと」がいかにしてそうした偶有性を帯びるに至っているかを分析していく。
アシの海上居住の現状と調査地について概説する第1章に続き、第2章では、祖先の移住に関する口頭伝承を詳細に検討し、今日に至るアシの移住・居住史を再構成することで、「人々と土地との本源的な結び付き」という通念とは対照的に、アシがごく偶発的な契機に基づいて島を築き、また島から島へと移り住んできたことを明らかにする。第3章では、島々の間で死者の頭蓋骨を移送する伝統的葬制に注目し、海上居住に関連するアシの親族関係の諸側面について分析する。本章では、とくに女性の死者の扱いに着目することで、アシの葬制に「死者の集合性」と「個別性」が逆説的なかたちで併存しており、そのことが、アシにおける移動と定住の両義的関係を表現していることを指摘する。第4章では、キリスト教が一般的に受容されている現状の中に、人工島をはじめ、非キリスト教的な過去に関わる様々な痕跡が点在しており、「教会/カストム」のそのような併存が、アシの居住・生活に独自の揺れ動きをもたらしていることを示す。
第5章では、アシの基本的生業である漁撈活動を、GPS端末の利用を含む多角的な手法によって検討し、海洋環境との実践的な関わりが、「海に住まうこと」の継続可能性をめぐる人々の二面的な意識と不可分であることを明らかにする。第6章では自給的農耕に注目し、自らの居住・生活をめぐるアシの意識や実践が、放っておけばすぐに耕地を覆い尽くす草木に具現される、旺盛な「自然」の力との関わりの中でのみ理解されうることを示す。第5章・第6章の考察が示すように、そのような人間を超えた「自然」の力こそ、本書全体の主題である「住まうこと」の偶有性の基底にあるものに他ならない。第7章では、太平洋戦争直後の反植民地主義運動、マーシナ・ルールをめぐるアシの記憶について考察する。この運動において父母たちが、大規模集落や集団農園などまったく新しい居住・生活様式を創出したという記憶は、今日なお、日常的景観の中の様々な痕跡を通じて想起され、アシの人々に別様な生の可能性を指し示し続けている。
結論では、アシの「海に住まうこと」に内在する偶有性に関する本書の考察を、いわゆる存在論的転回や「自然/文化」概念の再考といった現代の人類学理論の流れの中に位置付け、その意義を明示する。(筆者)

学会通信

新入会員

*新入会員の連絡先についてはsecretary[アットマーク]jsos.netにご連絡下さい。問題なければ紹介いたします。

*2016年度をもって事務委託をしていました大学生協学会支援センター が終了します。これに伴い、ご所属やメールアドレス変更、退会希望の場合も、secretary[アットマーク]jsos.netにご連絡下さい。

寄贈図書

論文の寄稿について

日本オセアニア学会ニューズレターでは、論文の寄稿を随時受け付けています。

  • 寄稿資格:日本オセアニア学会員に限ります。
  • 枚数:400字詰め原稿用紙30枚程度(注釈、図表、参照文献リスト等を含む)
  • その他、国際会議やワープショップなどへの参加報告、現地報告なども受け付けます。分量については個別にご相談下さい。
  • 問い合わせ先:編集委員 飯高伸五(理事)<ngiraibekii[アットマーク]gmail.com>

(執筆希望の方はご一報ください)




ニューズレターNo.116から

第16回 日本オセアニア学会賞選考要項

2016年度日本オセアニア学会賞選考委員会

  1. 本学会賞受賞資格者は本学会会員で、対象となる著書または論文の刊行時に原則として40歳未満とする。対象となる著書または論文は1編とし、2015年1月1日から2016年12月31日までに刊行されたものとする。なお、該当する著書または論文が複数の著者によるものの場合は、筆頭著者のものに限定する。
  2. 候補者の応募は自薦あるいは本学会員からの他薦による。他薦による場合は、他薦者は被推薦者(候補者)の了解を得ていることが望ましい。
  3. 自薦の場合は、選考対象となる著書または論文について、1部以上を日本オセアニア学会事務局宛に送付するものとする。送付に際し、連絡先(住所、FAX番号、E-mailアドレス)を明記するものとする。
  4. 他薦の場合は、推薦者の氏名と被推薦者(候補者)の氏名、被推薦者の連絡先(住所、FAX番号、E-mailアドレス)、および被推薦者の選考対象となる著書または論文名を明記する。雑誌論文の場合は、雑誌名、巻号、出版年を、著書の場合は著書名(分担執筆の場合は、担当章のタイトルと著書のタイトル、編者名)、出版社、出版年を明記する。この場合も、著書または論文をオセアニア学会事務局に送付することが望ましいが、送付されていない場合でも受理する。なお、推薦理由が必要であると判断する場合は、200字以内の推薦文を添付してもよい。
  5. 応募期間は2016年11月1日から2017年1月15日まで(必着)とする。
  6. 送付先は下記とする。自薦の場合は、著書または論文を同封する必要があるので、郵便ないしは宅配便で送付することし、他薦の場合は郵便以外にE-mailでも受け付けることとする。
    (日本オセアニア学会事務局)
    〒424-8610 静岡県静岡市清水区折戸3-20-1 東海大学海洋学部小野林太郎研究室宛て
    TEL 054-334-0411 FAX 054-337-0216
    E-mail: secretary[アットマーク]jsos.net
  7. 事務局は自薦および他薦の書類を受領してから1週間以内に、受領した旨の連絡をし、受領書類を選考委員長へ郵送する。
  8. 2017年1月15日以降、選考委員会は厳格な審査を行い、その結果を本年度の本学会総会の開催前に理事会に報告する。

<注 記>

  1. 応募者はPCOに論文を掲載したことがあるか、掲載したことがない場合は、受賞後数年内にPCOへ投稿することが望まれます。
  2. 選考を円滑に進めるため、すでに刊行されている書籍または論文については、募集期間が始まり次第、速やかに、応募して下さるようお願いします。
  3. オセアニア地域に関わるあらゆる研究分野の作品が対象となっています。

日本オセアニア学会賞規定はこちらのページに掲載しています。


第34回日本オセアニア学会研究大会・総会のお知らせ

第34回日本オセアニア学会研究大会・総会を下記の要領で開催いたします。会員の皆様の多数のご参加をお待ちしております。ご出欠につきましては、下記の申込用フォームをご利用の上、2017年2月5日(日)までにお知らせください。

日時
2017年3月26日(日)14:00 〜27日(月)12:00 (予定)
(理事会26日(日)11:00〜12:00、評議会26日(日)12:00〜13:00)
一般参加者の方は26日(日)12:30より受付を開始いたします。
会場
松江しんじ湖温泉 夕景湖畔 すいてんかく
〒690-0852 島根県松江市千鳥町39
TEL:0852-21-4910(代表)
Website:http://www.suitenkaku.co.jp/
大会会場について
宍道湖の北側湖畔に面した温泉地「松江しんじ湖温泉」は、効能豊富な豊富に湧き出す77度の天然温泉と、四季折々に変化する宍道湖の眺望をお楽しみいただけます。宍道湖は全国で7番目の広さを誇り、文豪小泉八雲がこよなく愛した宍道湖を眺めながら贅沢な時間が過ごせます。
交通
●自動車でお越しの場合(ホテルに無料駐車場があります)
 山陰道「松江西ランプ」より車10分
●電車でお越しの場合
 岡山駅より「特急やくも」でJR松江駅まで2時間45分。
 そこからバス(20分、210円)かタクシー(10分、1,000円程度)。
●飛行機でお越しの場合
 出雲空港より空港連絡バス(40分、1,130円)で「松江しんじ湖温泉駅」まで直通。
 そこから徒歩3分。
 詳細はホテルウェブサイトよりご確認ください。
 またご不明な点は大会事務局までお問い合わせください。
大会参加費
●有職者(定年等の退職者及び学術振興会特別研究員等も含む)
・・・・・・・・・・19,000円(参加費・懇親会費・宿泊費込)
●無給者(大学院生、学生等)
・・・・・・・・・・12,000円(参加費・懇親会費・宿泊費込)
・学会参加のみは7,000円となります。懇親会参加費や宿泊費は含まれません。
・大会参加費は当日に会場受付で徴収いたします。
・領収書に会費と宿泊費を分けて記載する必要がある方は、その旨を参加申し込み時にお知らせください。
・申込期限を過ぎた場合、宿の手配ができない可能性があること、また、直前のキャンセルはキャンセル料を徴収することを予めご了承ください。
・お部屋は和室相部屋となります。個室、洋室等をご希望の方は、ご相談くださいませ。
参加・発表申し込み
研究大会に参加される方は、出張依頼書の有無、研究発表の可否、発表される場合には「発表題目」と「使用機器」について申込用フォームにご記入ください。また、フォームがご利用できない場合は、ご氏名と連絡先を明記の上、郵便で必要事項を大会・総会事務局にお知らせください。発表時間は演題数にもよりますが、質疑応答を入れて20〜25分程度を予定しています。
第34回研究大会・総会事務局
島根大学法文学部 福井栄二郎
〒690-8504 島根県松江市西川津町1060
TEL:0852-32-6188
e-mail:fukui[アットマーク]soc.shimane-u.ac.jp

関東地区例会のお知らせ

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関西地区例会のお知らせ

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【新刊紹介】

丹羽典生(編)『〈紛争〉の比較民族誌――グローバル化におけるオセアニアの暴力・民族対立・政治的混乱』(春風社、2016年)
筆者は、2000年頃からフィジーを中心に社会人類的フィールド調査を行い、研究成果を公表してきた。2000年とは、まさにフィジーにおける3度目のクーデタが起きた直後のことであった。そのため、博士論文では、フィジーの村落部で共産主義者と呼ばれ、独特な社会運動を起こした人々についての歴史と現状の解明を試みたが、紛争については、つねに頭の片隅に置いていた。
本書は、筆者のこれまでの関心のひとつであった紛争についての書物である。オセアニア諸社会における紛争に焦点を当てている。民族学や文化史的事象としての紛争というよりは、独立やグローバル化と呼ばれる時代を迎えた現代において生起している政治的諸問題を題材としている。括弧つきで紛争という用語を用いているように、いわゆる死者数で定義する様な政治学的見方を離れて、検討していくことを試みている。オセアニア全体の状況をみていくことは、筆者個人の力では及ばないため、国立民族学博物館の共同研究(「オセアニアにおける独立期以降の〈紛争〉に関する比較民族誌的研究」)を利用することで、研究を推進した。本書はその成果としてある。
類似した著作としては、『現代オセアニアの〈紛争〉――脱植民地期以降のフィールドから』を、2013年に昭和堂から出版している。こちらは、オセアニアの紛争に関する基本的な情報を日本語で整理することを目的としていた。実際、日本語では紹介されることも少ないオセアニアの数々の政治的諸問題について、基本的な政治的事件と概要を選び出し、背景について紹介することを試みている。
それに対して、本書では、個別事例の専門的分析を行っている。章立ては、以下となる。
序章 「イノセンスの終焉にて――オセアニアにおける〈紛争〉の比較民族誌的研究にむけて」(丹羽典生)
第1部 暴力
第1章 「イフォガ――サモア社会の謝罪儀礼」(山本真鳥)
第2章 「トンガにおける都市性と他者性の現在――暴力の発露としての首都暴動再考」(比嘉夏子)
第3章 「先住民と暴力――マオリ像の変遷に関する試論」(深山直子)
第2部 民族対立
第4章 「敵と結婚する社会――ニューギニア高地における紛争の拡大と収束の論理」(深川宏樹)
第5章「紛争下の日常を生きる人々――ソロモン諸島ガダルカナル島北東部における紛争経験」(石森大知)
第6章 「分裂と統合のはざまで――フィジーにおける2000年クーデタと西部政体の樹立運動」(丹羽典生)
第3部 政治的混乱
第7章 「脱植民地化過程における軋轢の胚胎――バナバ人とキリバス人の境界生成」(風間計博)
第8章 「ウェストミンスター型とビッグマン型政治――パプアニューギニア現代政治の分水嶺」(岩本洋光)
第9章 「太平洋諸島フォーラム諸国によるフィジーへの介入――地域安全保障協力をめぐる動態」(小柏葉子)
本書の構成は、暴力、民族対立、政治的混乱の三部とした。本書が、局所的に発現するミクロな身体的あるいは個人的な水準での暴力の発現から、中間集団である民族レベルでの対立、そして国際関係的な水準も含めた対立としての政治的混乱までをカバーしているからである。
以上を通じて、本書の序章1-1末尾で書いたように、本書は、「グローバル化以降の変動をオセアニア諸社会がいかに受けとめ、対応したのかを、その時代に起きた広い意味での政治的抗争に着目することを通じて考察」している。オセアニアは、そもそも「政治人類学的研究を含めて、地域間比較研究の実験場としてあった。本書では、オセアニアという地域の枠組みから、グローバル化を経た現在の紛争形態の変化を視野に入れつつ研究を行っていきたい。古典的な研究としての存在感と比較したとき、現在の紛争について考察する研究は、質量ともに端緒についた段階に過ぎないのである。そして以上の作業を通じて、他の地域の紛争との比較の第一歩を切り開いて」いければと考えている。(編者)
比嘉夏子(著)『贈与とふるまいの人類学――トンガ王国の〈経済〉実践』(京都大学学術出版会、2016年)
この現代社会を覆う閉塞感のなかでオルタナティヴな経済システムを模索するべく、贈与経済についての論考やモースをはじめとする著作は再度脚光を浴びている。それでもなお、贈与というあまりにも根源的で古典的なテーマを、あえて今、しかもその議論のルーツともいうべきオセアニア地域を対象にして改めて取り組むことの難しさは、言うまでもないだろう。伝統/近代、贈与/市場、モノ/貨幣、といった使い古された枠組みを超え、いったい何を提示することができるのか。本書はそうした壮大な問いに対する、ひとつの民族誌的回答である。
本書が試みているのは、贈与という事象を、人びとがモノを伴って「ふるまいあう」相互行為場面として検討することで、その場をとりまく人びとの感情や行動を含めながら、贈与という営みを動態的かつ包括的に描きなおすことである。既存の研究の多くが、贈与儀礼の構造やプロセス、贈与する行為者の関係性や贈与されるモノの性質や歴史性・象徴性について入念な記述や分析を行ってきたが、そこで実際に交わされている行為の動態、なかでも特に非言語的なコミュニケーションの領域については、必ずしも注視されてこなかった。いわゆる儀礼的な場面のみならず、贈与がより日常に根ざしたインフォーマルな形態であればなおさらのこと、相互認知環境や周囲の状況に伴う判断、そして即興的な行為という一連の環境のなかにこそ、贈与は埋め込まれている。このような点も含め、「ふるまい」として贈与を捉えることの妥当性は、本書の全編にわたって複数事例から提示されている。
本書の特色のもうひとつに、贈与を必ずしも伝統的な文脈においてのみ理解するのではなく、キリスト教実践や海外移民の経済活動のなかで見られる現代的な贈与実践について、詳細に検討している点が挙げられる。伝統財だけでなく近代貨幣を用いた贈与の分析に多くを割くことによって、経済活動としての贈与の定量的データを示したいっぽう、その実践場面の分析からは、近代貨幣さえも人びとの贈与のふるまいの一部に組み入れられ、それがもつ可触性tangibilityを発揮しながら活発にやりとりされている点も明らかにした。
トンガの贈与は、所有に対するローカルな価値観に支えられながら、贈与の場面を取り巻く人びとのまなざし、そして日々の協働的な「ふるまい」の総和のなかで、今もなお豊かに展開されている。人類学分野における経済人類学や贈与論の位置や流行り廃りにかかわらず、オセアニアの人びとの生の諸側面において、贈与という営みが決して看過できないことを、少なくとも本書は提示しているのではないだろうか。(筆者)
三尾裕子・遠藤央・植野弘子(編)『帝国日本の記憶――台湾・旧南洋群島における外来政権の重層化と脱植民地化』(慶應義塾大学出版会、2016年)
本書は、日本学術振興会科学研究費補助金(基盤A(海外学術)「日本を含む外来権力の重層下で形成される歴史認識――台湾と旧南洋群島の人類学的比較」)(研究代表者:東京外国語大学教授(当時)三尾裕子、課題番号2251012)の成果報告である。他に,日本文化人類学会が発行する『文化人類学』(81巻2号、2016)に特集「外来権力の重層化と歴史認識―台湾と旧南洋群島の人類学的比較」として、序および4本の論文が掲載されているのでご参照いただけると幸いである。 目次は次のとおりである(副題略)。
まえがき(遠藤 央)
「台湾と旧南洋群島におけるポストコロニアルな歴史人類学の可能性」(三尾裕子)
第1部 日本の植民地支配と国際環境
「委任統治・信託統治と「日本」」(遠藤 央)
「台湾における日本仏教の社会事業」(松金公正)
「言語接触と植民地」(林 虹瑛)
第2部 複数の文明・政権を跨ぐ記憶
「パラオの語りに見る植民地経験のリアリティ」(三田 牧)
「植民地台湾の生活世界の「日本化」とその後」(植野弘子)
「台湾における「日本語」によるキリスト教的高齢者ケア」(藤野陽平)
第3部 脱植民地化の試み
「パラオ・サクラ会」(飯高伸五)
「交錯する「植民地経験」」(石垣 直)
「台湾の植民地経験の多相化に関する脱植民地主義的研究」(上水流久彦)
あとがき(植野弘子)
本研究は、台湾と旧南洋群島でフィールドワークや歴史研究に長年従事していた研究者が、帝国日本、記憶、歴史認識、外来政権の重層化、脱植民地化、というキーワードのもとに相互の研究を参照しながら、新たな視点の獲得を試みたものである。
三尾の序論から問題意識を引けば、「彼ら自身の植民地経験や、戦後の日本からの支配離脱後の生活過程の中で、日本に統治されたことや、日本を通して取り込まざるを得なかった「日本語」「日本文化」などが、彼らの歴史認識形成や、現在の文化の構築にどのように関係しているのかを明らかにし、両地域の比較研究を行うことを目的」としている。
相互に台湾と旧南洋群島を歩くことから研究は開始された。旧南洋群島でのフィールドワーク経験からみると、日本語リテラシーの差はあきらかであった。「あのひとはひらがな、カタカナだけでなく、漢字が読める」といわれてしまう旧南洋群島と、帝国大学が設置され、教育勅語が教えられた台湾では、同じレベルで比較ができるのか最初は危惧したほどである。
たしかに、植民地政策それ自体をみれば、皇民化教育、神社の設置、民間人の移民、ハンセン病の隔離政策など比較可能な部分はあるが、委任統治領、戦略的信託統治領を経験した後に、独立や自治領などのことなる政治的地位を獲得した旧南洋群島と台湾の比較はなかなか困難な面も存在した。しかし、台北の中央研究院でのシンポジウム、日本台湾学会、日本オセアニア学会での分科会などを通して、研究が進展していく過程は新鮮な経験であった。
台湾と旧南洋群島は日本では「親日」というくくり方が頻繁になされるが、「親日言説」、「反日言説」は研究会で幾度となく話題になった。そのいい方の底流に何があるのかを本書から読みとっていただければ、幸いである。
第1部は、支配する側がそれぞれの地域にどのような視点をもってのぞみ、統治しようとしたかをとりあげている。
第2部は、異質な文明、文化にいくつか接してきたパラオ、台湾の人びとの経験をあつかっている。
第3部は、戦後新たな支配層が外からはいってきたという環境のなかで、台湾とパラオがどのように脱植民地化を試みたかを論じたものである。
現在までの帝国研究の蓄積からは、植民地が脱植民地化を試みるだけではなく、たとえば英国のように旧植民地からの移民流入とともに、旧宗主国も脱帝国化されると指摘されている。しかし、日本は「日本から分離された地域」との旧来の関係をきちんと精算しなかったため、脱帝国化を回避したかたちで「戦後」が開始されてしまったと考えられる。帝国日本と戦後日本の連続性、不連続性の解明は、さまざまなかたちで研究されているが、そうした研究にあらたな視点を付け加えることができれば、望外の喜びである。(編者=遠藤央)

学会通信

第16回評議員選挙について

今年度は評議員選挙の年となり、2017年1月半ば頃までに被選挙人名簿と投票用紙をお送りします。2月初旬には開票作業を行う予定ですので、皆様のご協力どうぞ宜しくお願いいたします。

所属変更

*ご所属やメールアドレスに変更がある場合は、事務局(大学生協学会支援センター オセアニア学会係)までご一報ください。連絡先は裏表紙に記載されています。

論文の寄稿について

日本オセアニア学会ニューズレターでは、論文の寄稿を随時受け付けています。

  • 寄稿資格:日本オセアニア学会員に限ります。
  • 枚数:400字詰め原稿用紙30枚程度(注釈、図表、参照文献リスト等を含む)
  • その他、国際会議やワープショップなどへの参加報告、現地報告なども受け付けます。分量については個別にご相談下さい。
  • 問い合わせ先:編集委員 飯高伸五(理事)<ngiraibekii[アットマーク]gmail.com>

(執筆希望の方はご一報ください)




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